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さくらのぶらじゃぁ初体験 45

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「……そ……そうね……わかったわ」
 園美としても、これは利害が一致する。異を唱える必要はない。そして、ちょっと刺激の強い会話だったためか、それまで心を支配していた怒りを忘れていた。
 丁度そこへ、別のヘッドライトが近づいてくる。
 振り返ると、車種は違うがやはり欧州の高級乗用車。大道寺家所有のものだ。
「お嬢様をお迎えにあがりました」
 運転席から降りた黒スーツの女性がうやうやしく告げた。園美は書類も持ったし、会社で会議を待たせている。木之元家の位置からだと、一度戻って知世を降ろすとかなりの遠回りになるため、知世には別の車を差し向けるよう、園美が自動車電話で呼んでおいたのだ。
「それじゃ知世、早く寝るのよ」
 いっぱしの母親のような台詞をはき、知世の頬に軽く口付ける園美。目を閉じ、それを受けていた知世はゆっくり目を開け、頷いた。
 園美は自分でへこませた、その後ろのドアを開けて身体を滑り込ませる。窓を開け、手を振る園美に、知世は手を振り返した。
 ゆっくりと走り出し、遠くなるテールランプを見送ってから、知世は後ろの車に乗り込む。目をつぶり、ため息をひとつつくと、静かに車は走り出す。
 すべては明後日だ。さくらが今日、試着したブラジャーやショーツの姿を一つ一つ脳裏に思い浮かべながら、知世は、体育の日に着ていく「おそろいの下着」をどれにしようか、考え始めていた。




 ──二日後
 さくらは緊張の面持ちだった。
 登校時から表情が強張っていたし、1時間目の算数の時間はほとんど上の空。さくらにとっては苦手な教科ではあるので、普段からあまり熱心とはいえないが、今日は一段と集中力を欠いている。
 そんなさくらを、知世は優しい笑みを浮かべて見つめていた。
 本当にうそのつけない性格だ。友枝小学校の生徒は、おっとりした子が多いので助かっているが、これが目ざとい生徒の一人もいれば、しきりに何かを気にしているさくらをあっという間に話題の中心にすえてしまうだろう。
 キーン コーン カーン コーン
 終業のチャイムに、さくらはビクリと肩を振るわせる。
 ついに来た。
「じゃぁ、算数はここまで。次は体育だから、早く着替えろよ」
 教科書をたたみながら、担任の寺田が言う。
 その言葉に、さくらはごくりと唾を飲み込んだ。
「さくらちゃん………」
 立ち上がった知世が手を差し伸べる。その手を支えに、さくらは椅子から立ち上がった。緊張で心臓が早鐘のように鳴っている。手と足が同時にでてしまいそうだ。
 そんなさくらの手を引いて、知世はゆっくりと廊下を歩く。
 本当なら、こんな風に緊張し、支えが必要なのは知世の方なのだが、さくらが一緒だと思っただけで、不安も緊張もあまり感じていなかった。
 女子更衣室のドアを開け、中に入る。到着が早かったのか、すでに制服を脱いで、体操着に袖を通している子も居た。
 一応、どの場所も自由に使える事になっているロッカー。隣り合った場所を確保したさくらと知世は、まず持ってきた体操着をそこに置く。
 ひとつ、大きく深呼吸をしたあと、ゆっくりと白タイを解く。ファスナーを下げると、上着を脱いだ。
 それを畳み、ロッカーに置いたさくらは、髪が長いために少し遅れる事になった知世を待った。
 タイミングをあわせるためだ。中着は一緒に脱がないといけない。
 じっとこちらを見ているさくらに、上着を置いた知世は微笑みかけた。
 さくらはそれに大仰に頷く。目が真剣だ。当人は大真面目で「目の会話」をしているつもりなのだろうが、その様子がむしろ可笑しい。
 さくらはゆっくりと両手を交差させて、中着の裾をつかんだ。
 知世が同じ挙措を取ったのを確かめると、こくこくと頷くような動作をする。心の中で、「いち、にーの………」と数えているのが手に取るように判る。
 知世は、さくらが心で「さん!」と言ったのを読み取り、タイミングを合わせて裾を捲り上げた。
 二人の中着が揃って同時にあげられ、白い下着が晒される。この二日で、電話で話して決めたのは、白地で、胸元にピンクのラインが入ったもの。少し肩紐が太めの、ファーストタイプだ。
 頭と袖を抜き、中着を畳みにかかる。これも髪の長い知世は少し遅れた。
 ドキドキと緊張が最高潮だ。今、初めて着けたブラジャーが晒されている。着替えている女子の誰かがこっちを見れば、気づかれてしまう。
 ふと、知世を見た。同じ白地にピンクのブラジャー姿で優しい笑みを浮かべてこちらを見ている。それから自分の胸に視線を落とした。
 誰が最初にみつけるだろう? 着替えながら談笑しているその声も、気になって仕方がない。
 このとき、さくらの気持ちは複雑だった。初めての事なので、ブラジャーを見られるのは恥ずかしいのだが、その一方で、早く見つけてほしい気もする。相反する気持ちが同時に心にあった。
 どきどきどきどきどきどきどき。
 やかましい心臓の音に抗うように、脱いだ中着をロッカーに収めようとした、そのとき──

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