さくらのぶらじゃぁ初体験 35
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おかあさん?……
今は亡き母親の名を告げられ、さくらは不思議そうな表情をした。
「撫子が天国に行ってしまったのは、あなたがまだ小さい時でしょう? さくらちゃんの胸が膨らんでくるところも、ブラジャーを着けるところも見れないまま、あの子は逝ってしまったわ……でも、もし、撫子が生きていたら……生きて、あなたの胸が膨らんできた事を知ったら、きっと私と同じように、とても喜んだと思うわ。あなたが大きくなった事に感動して、あなたに似合うブラジャーや下着を一生懸命に選んで、あなたが素敵な女のコになるようにって、夢中になっていろんな事をしたと思うの」
園美は、ひとつひとつの場面を噛んで含めるように、さくらに話した。そのためか、さくらの脳裏には、いつもリビングで優しく見つめている写真の撫子が、園美の話どおりの事をしてくる場面が浮かぶ。
おかあさん?……
今は亡き母親の名を告げられ、さくらは不思議そうな表情をした。
「撫子が天国に行ってしまったのは、あなたがまだ小さい時でしょう? さくらちゃんの胸が膨らんでくるところも、ブラジャーを着けるところも見れないまま、あの子は逝ってしまったわ……でも、もし、撫子が生きていたら……生きて、あなたの胸が膨らんできた事を知ったら、きっと私と同じように、とても喜んだと思うわ。あなたが大きくなった事に感動して、あなたに似合うブラジャーや下着を一生懸命に選んで、あなたが素敵な女のコになるようにって、夢中になっていろんな事をしたと思うの」
園美は、ひとつひとつの場面を噛んで含めるように、さくらに話した。そのためか、さくらの脳裏には、いつもリビングで優しく見つめている写真の撫子が、園美の話どおりの事をしてくる場面が浮かぶ。
まぁ、さくらちゃんの胸、膨らんできたのね
さくらちゃんが大きくなってくれて、お母さん、嬉しいわ
さぁ、さくらちゃん。胸が膨らんできたんだから、あなたもブラジャーをしましょうね
さくらちゃん、最初は、この「はじめて用」がいいんですって
さくらちゃん、とっても似合うわよ すごく可愛いわ
さくらちゃん、このデザインはどう? こっちも良いわねぇ 迷っちゃうわ
もし、撫子が生きていたならば、ふんわりした挙措と声で、きっとこんな風に語りかけたろう。園美が知世にしたように、はじめて着けるブラジャーを選んだり、優しく、そっと、膨らみを撫でてくれたかもしれない。そして、いっぱい喜んでくれたに違いない。何度も話を聞き、優しい人であったことの判っている撫子は、そんな姿でさくらの中に結像した。
「でも……撫子は、それを見ないで逝ってしまったわ」
園美の言葉が、甘くとろけそうな想像を打ち砕き、冷たい現実にさくらを引き戻す。そのとおりだ。撫子が亡くなったのは、さくらが3歳の時。その声も、姿も、抱きしめられた事も、ほとんど記憶には残っていない。あるのは藤隆をはじめ、知っている人から聞いた想像上の姿や声だった。
「母親として、子供の成長を見れなかったのは、とっても心残りだと思うの。それに、娘が大きくなって、胸が膨らんできたというのに自分は何も出来ないなんて、きっと天国で切ない思いをしてるんじゃないかと思うわ──」
園美は、しばし瞑目するように目を閉じ、言った。ふっと浮かんだ光景は、雲間から天使の撫子が下を見てオロオロする姿。もしかしたら、本当にそうなのかもしれないとさえ思える。
再び目を開けた園美は、さくらの肩にそっと右手を置いた。瞳をまっすぐに見つめ、一言一言を刻み込むように自分の気持ちを話した。
「──だから、私がしてあげるの。あの子の──撫子の代わりに。これから、さくらちゃんが女のコとして成長するのに必要な面倒は、みーんな、私がみてあげる。それなら、撫子もきっと、安心できると思うの。だから、さくらちゃん。今日、これを買ってあげるのは、あなたのためじゃない。私は撫子の代わり。出来なかった撫子に代わって、買ってあげるの。だから、遠慮なんかしないで貰ってもらえない?」
ある意味、ずるい言い方ではある。こんな風に言われて、さくらの優しい心で断れるはずがない。
「お母さんの………代わり………」
さくらが小さく呟く。それは、まだ少しだけ、断るための言葉を探しているようでもあった。だが、それが見つかるはずもなく、まっすぐに見つめる園美の瞳から逃げる事もできない。
「……………………はい……」
ややあって、さくらは小さく承諾の返事をした。
さくらちゃんが大きくなってくれて、お母さん、嬉しいわ
さぁ、さくらちゃん。胸が膨らんできたんだから、あなたもブラジャーをしましょうね
さくらちゃん、最初は、この「はじめて用」がいいんですって
さくらちゃん、とっても似合うわよ すごく可愛いわ
さくらちゃん、このデザインはどう? こっちも良いわねぇ 迷っちゃうわ
もし、撫子が生きていたならば、ふんわりした挙措と声で、きっとこんな風に語りかけたろう。園美が知世にしたように、はじめて着けるブラジャーを選んだり、優しく、そっと、膨らみを撫でてくれたかもしれない。そして、いっぱい喜んでくれたに違いない。何度も話を聞き、優しい人であったことの判っている撫子は、そんな姿でさくらの中に結像した。
「でも……撫子は、それを見ないで逝ってしまったわ」
園美の言葉が、甘くとろけそうな想像を打ち砕き、冷たい現実にさくらを引き戻す。そのとおりだ。撫子が亡くなったのは、さくらが3歳の時。その声も、姿も、抱きしめられた事も、ほとんど記憶には残っていない。あるのは藤隆をはじめ、知っている人から聞いた想像上の姿や声だった。
「母親として、子供の成長を見れなかったのは、とっても心残りだと思うの。それに、娘が大きくなって、胸が膨らんできたというのに自分は何も出来ないなんて、きっと天国で切ない思いをしてるんじゃないかと思うわ──」
園美は、しばし瞑目するように目を閉じ、言った。ふっと浮かんだ光景は、雲間から天使の撫子が下を見てオロオロする姿。もしかしたら、本当にそうなのかもしれないとさえ思える。
再び目を開けた園美は、さくらの肩にそっと右手を置いた。瞳をまっすぐに見つめ、一言一言を刻み込むように自分の気持ちを話した。
「──だから、私がしてあげるの。あの子の──撫子の代わりに。これから、さくらちゃんが女のコとして成長するのに必要な面倒は、みーんな、私がみてあげる。それなら、撫子もきっと、安心できると思うの。だから、さくらちゃん。今日、これを買ってあげるのは、あなたのためじゃない。私は撫子の代わり。出来なかった撫子に代わって、買ってあげるの。だから、遠慮なんかしないで貰ってもらえない?」
ある意味、ずるい言い方ではある。こんな風に言われて、さくらの優しい心で断れるはずがない。
「お母さんの………代わり………」
さくらが小さく呟く。それは、まだ少しだけ、断るための言葉を探しているようでもあった。だが、それが見つかるはずもなく、まっすぐに見つめる園美の瞳から逃げる事もできない。
「……………………はい……」
ややあって、さくらは小さく承諾の返事をした。