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さくらのぶらじゃぁ初体験 34

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 その数字を上から覗き見た園美が言う。
「じゃぁ、このサイズのを、あるだけ持ってきてちょうだい」
 そう店員に指示した園美だったが、その左右の手には、既にそれぞれブラジャーが吊るされたハンガーが3本づつ握られている。いずれもワイヤーの入ってない、ソフトブラに属するタイプだ。
「さぁ、さ。いっぱいあるから、選んでちょうだい。試着もバンバンするわよ。知世も脱ぎなさい。あなたも、もう何着か必要でしょう? さくらちゃんとお揃いにするのも良いわねぇ。ほら、さくらちゃんも、早く脱いで、脱いで」
 と、明らかに高揚した様子で、矢継ぎ早に指示を出す。
 さくらと知世は、しばしの間、顔を見合わせた。だが、これは異議を差し挟める状況ではないと感じたのだろう。知世は、着ていたブラウスの胸元のボタンを外し始める。
 それを見たさくらも、諦めたのか、最後の一枚のタンクトップを捲り上げた。
「まずは、どれがいいかしらねぇ」
 うきうきとした様子で、手に持ったブラジャーの品定めをしている園美に、さくらは恐る恐る切り出した。
「あのぉ……園美さん……」
「ん? なぁに」
「あの……その白いの一着だけで……いいんですけど……」
 そう言って、園美の右手にある、真っ白なブラジャーを指差した。
「あら、どうして? この花びら模様も可愛いわよ」
 園美は反対の手に持つ、肩紐の細いタイプを持ち上げて示した。白地だが、淡いピンクの花びらを散らした模様が、「さくら」の舞う姿のようで、名前に合っているように思う。
「あの……ひとつしか、買えないですし……」
 もじもじと、言いにくそうにさくらが言う。
「どうして?」
 更に不思議そうに園美が訊いた。いくら「ファースト・ブラ」と呼ぶとはいえ、最初に一着しか買ってはいけない法も慣習も存在しない。
「……その……おこづかいが……
 ややあって、さくらが蚊のなくような声で告白した。
 ここまでの通路で、オトナ用の値札を見たが、二千円~三千円の値段が付いていた。もらったばかりのお小遣いを財布に入れてあるから、同じ値段なら一着は何とか買えるだろうが、今月中はおやつのホットケーキも、友達と帰りにどこかに寄って、アイスクリームやクレープを食べるのも我慢しなくてはならないだろう。
 だが、その答えを聞いた園美は、突然に吹き出した。
「やだ、さくらちゃんったら、なに言っているの? 今日のはぜーんぶ、私のオ・ゴ・リ。あなたは、着けてみて、どれが良いか選ぶだけでいいのよ」
 前に屈み、さくらに目線を合わせるようにして、優しい表情で園美が言う。
「そ、そんな! 悪いです! わたしのためにお金出してもらうなんて………」
 慌てたさくらは、胸を隠していた両手を前でぶんぶん振って、園美の申し出を辞退しようと必死になった。
「いいのよ。遠慮しないで」
「でも……」
 なおも固辞しようとするさくらを見て、園美は、先ほどの高揚ぶりとはうって変わった少し寂しげな表情をうかべた。
 両手に持ったハンガーをとりあえず脇に置くと、膝を付き、さくらと目の高さを合わせる。じっと見つめられ、さくらの頬に僅かな朱が登った。
「それにね……さくらちゃん。違うのよ。あなたのためじゃないの……」
 思いもかけない事を言われ、さくらはいつものクセで「ほえ?」と小さく呟き、首を傾げた。
 さくらをじっと見ていた園美の視線が、ふっと左に流れる。思わず知らず、それを追って右を見るさくら。そこには、既にワンピースを脱ぎ、いま、ブラジャーを掴んで捲り上げたところの知世が不思議そうな表情をつくっていた。
 え? 知世ちゃんのため??
 視線の意味を素直に取ったさくらがそう考えたとき、園美は、知世に向かって、まるで何かを誘うように、手を差し伸べた。
 外したプラを右手に、それで軽く胸を隠している知世が、反対の左手で恐る恐るその手を取ると、そっと自分の方に引き寄せる。
 傍らに立たせた知世の腰の辺りを左腕で抱えるようにして支えた園美は、隠そうとする手をそっと下げさせ、覆うもののなくなった胸を、優しく、愛しそうに擦る。
「知世の胸が膨らんできたって判った時、私は本当に嬉しかったわ。もうそんなに大きくなったんだなぁ、って感動して、これからもっと、どんどん、女のコっぽくなっていっくのかなぁって思ったら、胸がきゅーんってなっちゃったの。もちろんまだ早いけど、さっき見たようなオトナのブラジャーをする日の事も想像したわ。そうしたら、着け方も教えてあげよう、合うサイズも測ってあげようって、楽しみで仕方なかったの」
 そこで一旦言葉を切った園美は、愛しそうに知世を見つめ、それからさくらを見た。
「……でも、さくらちゃんの胸が膨らんで来たって知ったら、きっと、おんなじ事をしたかったのに、出来なかった人が居る……。誰だか判る?」
 出来なかった人?
 さくらは園美の示す意味が判らず、首を傾げた。園美はだまってそんなさくらを見つめる。しばらくの間、試着室を沈黙が支配した。
「……撫子……よ……」
 ややあって、園美が小さく答える。

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