さくらのぶらじゃぁ 初体験 4
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──日曜日
「おはよぉ……」
園美があまり元気のない声で起きてきたのは、もう昼近くだった。
「おはようございます。お母さま」
ソファに腰を預け、次にさくらに着せるための「特別な衣装」に針を通していた知世は顔を上げると母の顔を見上げた。
お酒の呑みすぎですわね………
園美の顔を見上げた知世は、心配で僅かに顔を曇らせる。
国内でも最大手の玩具メーカーの社長である園美は、その立場上、さまざまなパーティーや会合に顔を出さねばならない。
ところが、園美はその美貌とグラマラスといって良い肢体に似合わず、アルコール類にあまり強くなかった。料理を引き立てるため、僅かに呑むことは平気だが、パーティーなどで、殆ど酒類主体になると、正直なところ、逃げ出したくなる。
だが、まだまだ男性が幅を利かせる男性優位の社会にあっては、「呑みニケーション」が出来ない事は致命傷になりかねない。さらに、取引先などの男性諸氏は、美しい園美と呑む機会を持ちたいという希望が多く、会社を率いる身としては、その後の影響を考えると、パーティーの類への出席を断る事は出来なかった。
──日曜日
「おはよぉ……」
園美があまり元気のない声で起きてきたのは、もう昼近くだった。
「おはようございます。お母さま」
ソファに腰を預け、次にさくらに着せるための「特別な衣装」に針を通していた知世は顔を上げると母の顔を見上げた。
お酒の呑みすぎですわね………
園美の顔を見上げた知世は、心配で僅かに顔を曇らせる。
国内でも最大手の玩具メーカーの社長である園美は、その立場上、さまざまなパーティーや会合に顔を出さねばならない。
ところが、園美はその美貌とグラマラスといって良い肢体に似合わず、アルコール類にあまり強くなかった。料理を引き立てるため、僅かに呑むことは平気だが、パーティーなどで、殆ど酒類主体になると、正直なところ、逃げ出したくなる。
だが、まだまだ男性が幅を利かせる男性優位の社会にあっては、「呑みニケーション」が出来ない事は致命傷になりかねない。さらに、取引先などの男性諸氏は、美しい園美と呑む機会を持ちたいという希望が多く、会社を率いる身としては、その後の影響を考えると、パーティーの類への出席を断る事は出来なかった。
夕べもまた、表面を取り繕って、あまり呑めないお酒を飲んできたのだろう。
メイドが朝食をどうするか聞いたが、園美は食欲がないらしく、水と液体胃薬の小瓶をを持ってこさせただけだった。苦いその液を眼をつぶって一息で飲み干し、しばらくソファに身体を預けて回復を待つ。
知世はそんな母を気遣ってか、何も言わず、静かに針を進めていた。
「それ……さくらちゃん用?」
どのくらい時間が経ったか、声をかけられた。知世が顔を上げると、力なくもたれているとはいえ、多少は回復したのか、こちらを見ている園美と目が合う。
「ええ、またビデオに出演して頂こうと思って」
言いながら、知世は両手で衣装を広げ、全体像を見せた。園美の表情に、とろけるような笑みが浮かぶ。流石は親子、趣味は似通っているのだろう。
「それだと、空を飛んだら、可愛い妖精みたいに見えるわねぇ」
と、『飛翔の魔法』で空を飛ぶさくらを想像する。もっとも、実際にさくらが魔法を使えて、本当に空を飛べることを園美は知らない。あくまで、愛娘が作った創作映像の中の話だと思っている。
「……さて、少し汗をかいてくるわ」
言いながら、園美は立ち上がった。最後の仕上げにサウナでアルコールを飛ばすつもりなのだろう。知世は微笑みを浮かべて、それを見送る。独りになった知世は、また静かに針を進めた。聞こえるのは、時を刻む時計の音と、手の中の衣擦れの音だけ。
「失礼いたします。お嬢様」
そう声をかけてメイドの一人が入ってきたのは、三十分ほど経った頃だろうか。顔をあげた知世にメイドは、
「奥様から、お嬢様をバスルームにお呼びするよう、言われたのですが……」
「お母様が?」
小首を傾げ、問い返した。意味のよく判らない、不思議な伝言。もっとも、伝えに来ただけのメイドに内容を問い詰めても無駄だろう。了解を告げ、メイドを下がらせると、針やハサミなどを片付け、腰を上げた。
用事の内容を考えつつ、階段を降りてバスルームに向かう。大きな更衣室は、臨海学校で泊まった宿舎の風呂場にも負けていない。そういえば、泊まりに来たさくらも、風呂の広さにはしきりに感心していた。考えてみれば、従業員用は別にあって、ここは知世と園美しか使わないのに、ある意味もったいない話ではある。
浴室につながるドアを軽くノックして、
「お母様、ご用と聞いたのですが」
と言いながら、そっとドアを開けた。視界を遮る湯気の中、園美は湯に浸かったまま、顔だけこちらを向き、
「うふふ……ねぇ、知世……久しぶりに、一緒に入らない?」
と、子供のような悪戯っぽい笑みで誘いかけた。
メイドが朝食をどうするか聞いたが、園美は食欲がないらしく、水と液体胃薬の小瓶をを持ってこさせただけだった。苦いその液を眼をつぶって一息で飲み干し、しばらくソファに身体を預けて回復を待つ。
知世はそんな母を気遣ってか、何も言わず、静かに針を進めていた。
「それ……さくらちゃん用?」
どのくらい時間が経ったか、声をかけられた。知世が顔を上げると、力なくもたれているとはいえ、多少は回復したのか、こちらを見ている園美と目が合う。
「ええ、またビデオに出演して頂こうと思って」
言いながら、知世は両手で衣装を広げ、全体像を見せた。園美の表情に、とろけるような笑みが浮かぶ。流石は親子、趣味は似通っているのだろう。
「それだと、空を飛んだら、可愛い妖精みたいに見えるわねぇ」
と、『飛翔の魔法』で空を飛ぶさくらを想像する。もっとも、実際にさくらが魔法を使えて、本当に空を飛べることを園美は知らない。あくまで、愛娘が作った創作映像の中の話だと思っている。
「……さて、少し汗をかいてくるわ」
言いながら、園美は立ち上がった。最後の仕上げにサウナでアルコールを飛ばすつもりなのだろう。知世は微笑みを浮かべて、それを見送る。独りになった知世は、また静かに針を進めた。聞こえるのは、時を刻む時計の音と、手の中の衣擦れの音だけ。
「失礼いたします。お嬢様」
そう声をかけてメイドの一人が入ってきたのは、三十分ほど経った頃だろうか。顔をあげた知世にメイドは、
「奥様から、お嬢様をバスルームにお呼びするよう、言われたのですが……」
「お母様が?」
小首を傾げ、問い返した。意味のよく判らない、不思議な伝言。もっとも、伝えに来ただけのメイドに内容を問い詰めても無駄だろう。了解を告げ、メイドを下がらせると、針やハサミなどを片付け、腰を上げた。
用事の内容を考えつつ、階段を降りてバスルームに向かう。大きな更衣室は、臨海学校で泊まった宿舎の風呂場にも負けていない。そういえば、泊まりに来たさくらも、風呂の広さにはしきりに感心していた。考えてみれば、従業員用は別にあって、ここは知世と園美しか使わないのに、ある意味もったいない話ではある。
浴室につながるドアを軽くノックして、
「お母様、ご用と聞いたのですが」
と言いながら、そっとドアを開けた。視界を遮る湯気の中、園美は湯に浸かったまま、顔だけこちらを向き、
「うふふ……ねぇ、知世……久しぶりに、一緒に入らない?」
と、子供のような悪戯っぽい笑みで誘いかけた。