今日はいちゃいちゃの日なの 17
「うん……」
フェイトも言って、振り返る。
なのはは、両手にひとつづつ持った皿をテーブルに置いた。配置は今朝と同じで、角を挟んで対角面を使っている。
それからおもむろに手を伸ばすと、スティックシュガーのような銀の包みを二つ、手に取った。辛味を増す調味料が詰まった袋で、子供用の甘口が、ひとつ入れると中辛、二つ入れれば辛口になる。
なのはは割りと辛めが好みなので、カレーを作った時は、いつもこの調味料を使っているから、フェイトもその挙措を特に気にしなかった。袋の封を切って、中身を片方の皿にふりかけたのも、いつもどおりだと思った。
フェイトも言って、振り返る。
なのはは、両手にひとつづつ持った皿をテーブルに置いた。配置は今朝と同じで、角を挟んで対角面を使っている。
それからおもむろに手を伸ばすと、スティックシュガーのような銀の包みを二つ、手に取った。辛味を増す調味料が詰まった袋で、子供用の甘口が、ひとつ入れると中辛、二つ入れれば辛口になる。
なのはは割りと辛めが好みなので、カレーを作った時は、いつもこの調味料を使っているから、フェイトもその挙措を特に気にしなかった。袋の封を切って、中身を片方の皿にふりかけたのも、いつもどおりだと思った。
だが、今朝と同じ席に着こうと椅子を引いたとき、思いもかけない事が起こった。
「あ、フェイトちゃんはそっちね」
なのはがフェイトの手をパッと抑えて言うと、そのままフェイトが引いた椅子に腰を降ろしてしまったのだ。
「?」
意味が判らず、一歩後退るフェイトに、
「さ、フェイトちゃんも座って」
と、朝は自分が座っていた席を勧めるなのは。
「え? あ……」
フェイトは戸惑いを隠せない。なぜ朝と入れ替えられるのか、その理由に見当がつかないからだ。
おまけに、椅子に腰掛けてみれば、目の前にあるカレー皿は、さっきなのはがパウダーをかけたものではないか。
もちろん、ヴィヴィオのように、こんなの辛くて絶対に食べられない──とまでは言わないが、どっちかといえば、あまり辛くないほうが嬉しい。
皿を取り替えてもらおうと、顔をあげたフェイトは、そこで目が点になった。
なのはは、目の前の皿からカレーを一すくいしたスプーンをフェイトの目の前に差し出している。
面食らうフェイトに、なのはは言った。
「あーん……」
え?
突然の事に、フェイトの思考がついていかない。
「あーん」
更になのはが重ねて言う。
フリーズした脳の回路を無理矢理働かせた結果、口を開けて、この差し出しているスプーンのカレーを食べろという意味だという事は理解したが、身体の方がついていかない。
「え……えっと……あの……」
どうしよう、どうしようと慌てふためいていたフェイトだったが、そういつまでもこうして固まっているわけにもいかない。
意を決し、ゆっくり口を開ける。反対に何故か目を瞑ってしまう。
スパイスの香りが口腔から鼻へ抜る事で、スプーンが口中に入った事を確かめたフェイトが口を閉じると、そっとなのはがそれを引き抜く。
「おいしい?」
なのはの問いに、フェイトはこくこくと頷いた。正直に言うと味や香りを「おいしい」と感じるより、なのはの手ずから食べさせてもらったという、幸福感の方が強い。
じっくりと味わって嚥下し、なのはの顔を見た。目を細めるようにして、笑みを浮かべてこちらを見ている。
この微笑みを見ていると、なんだか身体が溶けてしまいそうな気がして、慌てて目を逸らし、自分の目の前の皿を見た。
ハッとするフェイト。
そういえば、この皿には、辛さを増すパウダーがかかっている。という事は、もしかすると、これは自分用ではなく、なのは用という事になり、そして今、なのはがやったのと同じ事をしても良いという事なのだろうか。
それを裏付けるように、なのはは自分の前に置かれた皿の中身を口に運んでいない。
意を決したフェイトは、目の前の皿に匙を入れた。思わず知らず手が震える。
「な、なのは……」
小さく言ったフェイトは、スプーンを握った右手をなのはに向かって差し出した。
「あ……あーん……」
蚊の鳴くような小さな声で言いながら、なのはの反応を伺う。もし、拒否されたらどうしようという不安が少しあった。
だが、なのははまるでヴィヴィオがそうするように、素直に口をあける。そっとそこにスプーンを差し入れると、ぱくっと口を閉じた。
「あ、フェイトちゃんはそっちね」
なのはがフェイトの手をパッと抑えて言うと、そのままフェイトが引いた椅子に腰を降ろしてしまったのだ。
「?」
意味が判らず、一歩後退るフェイトに、
「さ、フェイトちゃんも座って」
と、朝は自分が座っていた席を勧めるなのは。
「え? あ……」
フェイトは戸惑いを隠せない。なぜ朝と入れ替えられるのか、その理由に見当がつかないからだ。
おまけに、椅子に腰掛けてみれば、目の前にあるカレー皿は、さっきなのはがパウダーをかけたものではないか。
もちろん、ヴィヴィオのように、こんなの辛くて絶対に食べられない──とまでは言わないが、どっちかといえば、あまり辛くないほうが嬉しい。
皿を取り替えてもらおうと、顔をあげたフェイトは、そこで目が点になった。
なのはは、目の前の皿からカレーを一すくいしたスプーンをフェイトの目の前に差し出している。
面食らうフェイトに、なのはは言った。
「あーん……」
え?
突然の事に、フェイトの思考がついていかない。
「あーん」
更になのはが重ねて言う。
フリーズした脳の回路を無理矢理働かせた結果、口を開けて、この差し出しているスプーンのカレーを食べろという意味だという事は理解したが、身体の方がついていかない。
「え……えっと……あの……」
どうしよう、どうしようと慌てふためいていたフェイトだったが、そういつまでもこうして固まっているわけにもいかない。
意を決し、ゆっくり口を開ける。反対に何故か目を瞑ってしまう。
スパイスの香りが口腔から鼻へ抜る事で、スプーンが口中に入った事を確かめたフェイトが口を閉じると、そっとなのはがそれを引き抜く。
「おいしい?」
なのはの問いに、フェイトはこくこくと頷いた。正直に言うと味や香りを「おいしい」と感じるより、なのはの手ずから食べさせてもらったという、幸福感の方が強い。
じっくりと味わって嚥下し、なのはの顔を見た。目を細めるようにして、笑みを浮かべてこちらを見ている。
この微笑みを見ていると、なんだか身体が溶けてしまいそうな気がして、慌てて目を逸らし、自分の目の前の皿を見た。
ハッとするフェイト。
そういえば、この皿には、辛さを増すパウダーがかかっている。という事は、もしかすると、これは自分用ではなく、なのは用という事になり、そして今、なのはがやったのと同じ事をしても良いという事なのだろうか。
それを裏付けるように、なのはは自分の前に置かれた皿の中身を口に運んでいない。
意を決したフェイトは、目の前の皿に匙を入れた。思わず知らず手が震える。
「な、なのは……」
小さく言ったフェイトは、スプーンを握った右手をなのはに向かって差し出した。
「あ……あーん……」
蚊の鳴くような小さな声で言いながら、なのはの反応を伺う。もし、拒否されたらどうしようという不安が少しあった。
だが、なのははまるでヴィヴィオがそうするように、素直に口をあける。そっとそこにスプーンを差し入れると、ぱくっと口を閉じた。