今日はいちゃいちゃの日なの 16
頬を染め、ぽぅっとなのはに見とれていたフェイトの前に、ぬっと薄茶の球体が突きつけられた。
玉ねぎだ。
ひとつを受け取ると、続けてもうひとつ渡され、慌てて片方づつの手に持つ。
「ひとつはみじん切り、もうひとつは乱切りでお願いね」
一緒に作った事は何度かあるから知ってはいるはずだが、なのははきちんとオーダーを出した。
「うん……」
返事をしたフェイトは、玉ねぎの皮を剥いて白地を出すと、包丁で半分にして、まずは水にさらす。涙が出るのを防ぐためだ。
玉ねぎだ。
ひとつを受け取ると、続けてもうひとつ渡され、慌てて片方づつの手に持つ。
「ひとつはみじん切り、もうひとつは乱切りでお願いね」
一緒に作った事は何度かあるから知ってはいるはずだが、なのははきちんとオーダーを出した。
「うん……」
返事をしたフェイトは、玉ねぎの皮を剥いて白地を出すと、包丁で半分にして、まずは水にさらす。涙が出るのを防ぐためだ。
それから縦に何本かの切り込みを入れ、横にして平行の切り込みを二つ入れると、後はトントンと切っていく。手際はなかなかのものだ。近接戦闘、特に斬撃に秀でている事となにか関連があるのかもしれない。
その間になのははフライパンと厚手の鍋を火にかけていた。これもまた、フェイトの包丁のタイミングによくあわせている。
「なのは……」
フェイトのそれだけで意味が通じた。なのはが差し向けたフライパンに、フェイトがみじん切り玉ねぎ一個分を投入する。小気味よい音がして、香ばしい匂いが立ち上った。これは飴色になるまで炒めるのだ。
なのはが焦げないようにフライパンをかき回している間、フェイトはやることもなく、たっぷりとなのはの裸エプロンを鑑賞できる──というわけにはいかなかった。
「フェイトちゃん、ご飯お願いできる?」
なのはの指示で冷蔵庫を開けたフェイトは、そこに研いだ米がザル上げされているのを見つけた。数年の海鳴市での生活で、すっかり米飯にも慣れたフェイトは、確かにこうする方が美味しい事を知っている。そのため、なのはが朝の間に研いでおいたのだろうと察しがついた。
二人だけ分の炊き方も心得たもので、フェイトは棚から取り出すと、ザルの米を入れ、次に水を計量して入れた。この土鍋も海鳴市に来てはじめて触れた調理機器だが、これで作る多人数向け料理、「鍋物」も今ではかなり慣れ、人数が集まっての食事のときには結構楽しみだったりする。
土鍋を持ってなのはの隣に移動し、炒めている隣のコンロにかけた。火力は強めで、吹き上がってくるのを待つのだ。
もちろん、待つといってもボーッと、ではない。牛肉を一口大に、それからニンニクのみじん切りを作っておく。
そろそろ厚手鍋もよく温まった頃合だし、これらを炒めないといけない。
なにはもタイミングを測っていたようで、鍋に油をしいてフェイトの方に差し出した。
小気味よい音がして、炒め始めたのを確かめて、フェイトはジャガイモ、人参、もうひとつの玉ねぎを次々と切っていく。フェイトが切る人で、なのはが炒める人と、あまり意味の無い分業をしつつ、殆ど言葉を交わさないのに、一種類を切り終わると、さっと鍋を差し出すという、絶妙のタイミングを示すところが二人の絆の深さを表していた。
もちろん、フェイトの方もなのはの気持ちや行動をよく見ている。鍋の中身が程よく炒まったところで、ピッチャーを使って1リットルほどの水を入れる。もともと、中身が熱せられていた上、火力の強い火口を使っているため、程なく鍋は沸騰をはじめた。
フェイトがお玉で中をかき回し、アクを取りながら煮込んでいく。
その間も炒められ、飴色になった玉ねぎが加えられると、フェイトは、大きな板チョコという様子のカレールーを割り始めた。
味は甘口。ヴィヴィオが家族に加わった事もあるが、実はフェイトがあまり辛いものが得意でない事も、この味の選択に影響している。
本当なら、煮込みの時間をもう少し取らないとコクが出ないのだが、そこは高町家の秘法があった。冷凍庫から出てきた四角いブロック。前回カレーを作ったとき、少なくとも一晩以上寝かせたところで、一部を凍らせておいたものだ。これを入れれば、作ったその日から、「一晩寝かせたカレー」の味が出るというわけ。
土鍋の方もすでに沸騰し、弱火にした後、現在は蒸らしに入っている。
これで夕飯の準備は整った。
炊きたてのご飯を皿に半分盛り、残り半分にカレーをかければ出来上がりとなる。スパイスのいい匂いがなんともいえない。
「じゃ、食べようか?」
たった一枚だけ身体につけていたエプロンを解きながら、なのはが言った。
その間になのははフライパンと厚手の鍋を火にかけていた。これもまた、フェイトの包丁のタイミングによくあわせている。
「なのは……」
フェイトのそれだけで意味が通じた。なのはが差し向けたフライパンに、フェイトがみじん切り玉ねぎ一個分を投入する。小気味よい音がして、香ばしい匂いが立ち上った。これは飴色になるまで炒めるのだ。
なのはが焦げないようにフライパンをかき回している間、フェイトはやることもなく、たっぷりとなのはの裸エプロンを鑑賞できる──というわけにはいかなかった。
「フェイトちゃん、ご飯お願いできる?」
なのはの指示で冷蔵庫を開けたフェイトは、そこに研いだ米がザル上げされているのを見つけた。数年の海鳴市での生活で、すっかり米飯にも慣れたフェイトは、確かにこうする方が美味しい事を知っている。そのため、なのはが朝の間に研いでおいたのだろうと察しがついた。
二人だけ分の炊き方も心得たもので、フェイトは棚から取り出すと、ザルの米を入れ、次に水を計量して入れた。この土鍋も海鳴市に来てはじめて触れた調理機器だが、これで作る多人数向け料理、「鍋物」も今ではかなり慣れ、人数が集まっての食事のときには結構楽しみだったりする。
土鍋を持ってなのはの隣に移動し、炒めている隣のコンロにかけた。火力は強めで、吹き上がってくるのを待つのだ。
もちろん、待つといってもボーッと、ではない。牛肉を一口大に、それからニンニクのみじん切りを作っておく。
そろそろ厚手鍋もよく温まった頃合だし、これらを炒めないといけない。
なにはもタイミングを測っていたようで、鍋に油をしいてフェイトの方に差し出した。
小気味よい音がして、炒め始めたのを確かめて、フェイトはジャガイモ、人参、もうひとつの玉ねぎを次々と切っていく。フェイトが切る人で、なのはが炒める人と、あまり意味の無い分業をしつつ、殆ど言葉を交わさないのに、一種類を切り終わると、さっと鍋を差し出すという、絶妙のタイミングを示すところが二人の絆の深さを表していた。
もちろん、フェイトの方もなのはの気持ちや行動をよく見ている。鍋の中身が程よく炒まったところで、ピッチャーを使って1リットルほどの水を入れる。もともと、中身が熱せられていた上、火力の強い火口を使っているため、程なく鍋は沸騰をはじめた。
フェイトがお玉で中をかき回し、アクを取りながら煮込んでいく。
その間も炒められ、飴色になった玉ねぎが加えられると、フェイトは、大きな板チョコという様子のカレールーを割り始めた。
味は甘口。ヴィヴィオが家族に加わった事もあるが、実はフェイトがあまり辛いものが得意でない事も、この味の選択に影響している。
本当なら、煮込みの時間をもう少し取らないとコクが出ないのだが、そこは高町家の秘法があった。冷凍庫から出てきた四角いブロック。前回カレーを作ったとき、少なくとも一晩以上寝かせたところで、一部を凍らせておいたものだ。これを入れれば、作ったその日から、「一晩寝かせたカレー」の味が出るというわけ。
土鍋の方もすでに沸騰し、弱火にした後、現在は蒸らしに入っている。
これで夕飯の準備は整った。
炊きたてのご飯を皿に半分盛り、残り半分にカレーをかければ出来上がりとなる。スパイスのいい匂いがなんともいえない。
「じゃ、食べようか?」
たった一枚だけ身体につけていたエプロンを解きながら、なのはが言った。