なにが出るかな? 4
ま、まずい……
睦月と晴宏の頭に、同時に同じ想いが浮かんだ。
だが、機を見るに敏な晴宏は、瞬時に「心友」を見捨てる道を選ぶ。
「じゃ、睦月くん、そういう事で」
なにがそういう事なのか判らないが、睦月が一瞬、あっけに取られたのを見逃さず、写真集を押し付けるや、脱兎のごとく逃げ出した。
はたと気付けば、他の男子も蜘蛛の子を散らすように掻き消えていて、取り残されているのは睦月だけ。
慌てて、写真集を背中に隠したが、そんな事をしてももう遅い。いや、「遅い」よりももっと悪かった。
睦月と晴宏の頭に、同時に同じ想いが浮かんだ。
だが、機を見るに敏な晴宏は、瞬時に「心友」を見捨てる道を選ぶ。
「じゃ、睦月くん、そういう事で」
なにがそういう事なのか判らないが、睦月が一瞬、あっけに取られたのを見逃さず、写真集を押し付けるや、脱兎のごとく逃げ出した。
はたと気付けば、他の男子も蜘蛛の子を散らすように掻き消えていて、取り残されているのは睦月だけ。
慌てて、写真集を背中に隠したが、そんな事をしてももう遅い。いや、「遅い」よりももっと悪かった。
ゆんなの規格外に大きな瞳が、いつも見ている上の方ではなく、下を見ているのに気がついたからだ。
え?
視線を追いかけた睦月は、そこに前がこんもりと盛り上がった自分のスラックスをを見つけてしまった。
「わぁ!」
慌てて前かがみになり、膨らみを隠す睦月。だが、今の状況で前かがみになれば、必然的に写真集を前に持っていく形になる。豊満な胸をギリギリで隠した扇情的なポーズの写真を股間の前に持ってきたのでは、勃起を見られるより状況は悪化である。
「やだ、坂本くんたら」
「恋人がいるのに、あんなえっちなの見るなんて、サイテー」
仲良し5人組がゆんなを取り囲み、睦月を汚いものでも見るような蔑んだ目で見る。
「ち、ちがう……ボクは……」
なんとか言い訳を試みるが、まるでゆんなはSPに守られる首相のように、人垣の中に遮蔽されてしまった。それに、写真集を手に持ったままでは、説得力なんかありっこない。それでも睦月は、藁にもすがる思いで、
「ゆんゆん!」
と呼んだが、ゆんなはプイッと横を向き、
「睦月なんか、知らないアル!」
と言い残し、くるりと踵を返した。
慌てて追いかけようと半歩踏み出したものの、周囲の女のコ達の冷たい視線に、それを遮られたのだった。
結局、昼休みからこっち、ゆんなは一言も口をきいてはくれなかった。
放課後も、いつものように一緒ではなく、一人で帰ろうとした。けれど、家はお隣同士で、部屋も向かい合わせ、結局、帰る方向は同じである。本気で駆け足になれば別だが、気づいた睦月が追いつくのは、それほど難しくなかった。
急ぎ足で進み、なんとかゆんなの背中を見つけた睦月は、通り道にある、すっかり馴染みになったお店でタイヤキを買い、更に急いでゆんなを追った。
何とか追いつくと、早速、タイヤキを差し出してご機嫌をとり、あの写真集が晴宏のもので、自分は無理矢理見せられただけだという事を必死に説明した。
「ふーん、そうアルか」
タイヤキの一口を呑み込んだゆんなが、気のなさそうな声でそう応える。もちろん、話の内容なんぞ、信じていない。
だが、それを聞いた睦月は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「よかった。判ってくれたんだね?」
これが、話を聞かないとか、「そんなの嘘アル」とか否定する態度だったら、睦月も慌てていたのだろうが、タイヤキを受け取って食べた上、「そうアルか」などと言われたので、すっかり理解を得たと思ってしまった。
いや、理解を得たいという願望が、そうさせたのかもしれない。
安心したのか、いかに晴宏が困った奴であるかを並べ立てる睦月。だが、そうして晴宏のことを言い立てれば言い立てるほど、ゆんなの心が疑念を強めていることに気づかない。
更に、場の悪い、とどめというべき言葉を、睦月は言ってしまった。
「じゃ……じゃぁ、今夜……待ってるから……」
睦月にしてみれば、気を利かせたつもりの言葉。いわなくてもしょっちゅう、ベランダを渡って部屋に忍んでくるゆんなだったが、「待ってるよ」といえば、更に喜んでくれるかと思ったのだ。
だが、ゆんなにしてみれば、昼にあんな事があったばかりで、この一言は、半ばバカにしているとしか、取りようが無かった。
慎み深い乙女のように頬を染めて自分の家に入っていく睦月を、ゆんなは、拳を握り締めて見送っていた。
え?
視線を追いかけた睦月は、そこに前がこんもりと盛り上がった自分のスラックスをを見つけてしまった。
「わぁ!」
慌てて前かがみになり、膨らみを隠す睦月。だが、今の状況で前かがみになれば、必然的に写真集を前に持っていく形になる。豊満な胸をギリギリで隠した扇情的なポーズの写真を股間の前に持ってきたのでは、勃起を見られるより状況は悪化である。
「やだ、坂本くんたら」
「恋人がいるのに、あんなえっちなの見るなんて、サイテー」
仲良し5人組がゆんなを取り囲み、睦月を汚いものでも見るような蔑んだ目で見る。
「ち、ちがう……ボクは……」
なんとか言い訳を試みるが、まるでゆんなはSPに守られる首相のように、人垣の中に遮蔽されてしまった。それに、写真集を手に持ったままでは、説得力なんかありっこない。それでも睦月は、藁にもすがる思いで、
「ゆんゆん!」
と呼んだが、ゆんなはプイッと横を向き、
「睦月なんか、知らないアル!」
と言い残し、くるりと踵を返した。
慌てて追いかけようと半歩踏み出したものの、周囲の女のコ達の冷たい視線に、それを遮られたのだった。
結局、昼休みからこっち、ゆんなは一言も口をきいてはくれなかった。
放課後も、いつものように一緒ではなく、一人で帰ろうとした。けれど、家はお隣同士で、部屋も向かい合わせ、結局、帰る方向は同じである。本気で駆け足になれば別だが、気づいた睦月が追いつくのは、それほど難しくなかった。
急ぎ足で進み、なんとかゆんなの背中を見つけた睦月は、通り道にある、すっかり馴染みになったお店でタイヤキを買い、更に急いでゆんなを追った。
何とか追いつくと、早速、タイヤキを差し出してご機嫌をとり、あの写真集が晴宏のもので、自分は無理矢理見せられただけだという事を必死に説明した。
「ふーん、そうアルか」
タイヤキの一口を呑み込んだゆんなが、気のなさそうな声でそう応える。もちろん、話の内容なんぞ、信じていない。
だが、それを聞いた睦月は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「よかった。判ってくれたんだね?」
これが、話を聞かないとか、「そんなの嘘アル」とか否定する態度だったら、睦月も慌てていたのだろうが、タイヤキを受け取って食べた上、「そうアルか」などと言われたので、すっかり理解を得たと思ってしまった。
いや、理解を得たいという願望が、そうさせたのかもしれない。
安心したのか、いかに晴宏が困った奴であるかを並べ立てる睦月。だが、そうして晴宏のことを言い立てれば言い立てるほど、ゆんなの心が疑念を強めていることに気づかない。
更に、場の悪い、とどめというべき言葉を、睦月は言ってしまった。
「じゃ……じゃぁ、今夜……待ってるから……」
睦月にしてみれば、気を利かせたつもりの言葉。いわなくてもしょっちゅう、ベランダを渡って部屋に忍んでくるゆんなだったが、「待ってるよ」といえば、更に喜んでくれるかと思ったのだ。
だが、ゆんなにしてみれば、昼にあんな事があったばかりで、この一言は、半ばバカにしているとしか、取りようが無かった。
慎み深い乙女のように頬を染めて自分の家に入っていく睦月を、ゆんなは、拳を握り締めて見送っていた。