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今日はいちゃいちゃの日なの 1

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、変な場所にいた。
 見渡す限り、タイルに囲まれた部屋。頭の上から、温かく細いお湯が絶え間なく降り注いでくる。
 シャワー?
 フェイトは思った。だが、シャワールームにしては、異常に奥行きも幅も広く、天井が高い上、間仕切りも無い。ホールといっても良い空間だ。
 そして、そこを横にした左の腕で両の胸の膨らみを隠し、茂みの辺りは右手をあてがって、やや前かがみになりながら、フェイトはひたすらに歩いていた。
 なぜかフェイトが歩くのにしたがって、シャワーの噴出しもちゃんとついてくる。
 心の中は、早く自分の部屋へ行かなくてはという焦りでいっぱい。
 なぜかというと、周りに時空管理局の職員や同僚がごく普通に往来しているのに気づいてしまったから。もちろん、彼らや彼女らは制服を着ていたり、なぜか私服だったりするが、裸で居る者はいない。どういうわけか、シャワーについてこられているのはフェイトだけらしい。
 そして、一人裸で歩くフェイトを、物珍しそうに眺めたり、何かヒソヒソと話をしている。
 早く、早く部屋に行ってなにか着なきゃ
 羞恥と焦りをいっぱいに感じながら、フェイトはひたすらに歩いた。
 やがて、正面に壁が見えてきた。
 そこにはドアがついている。自分の部屋のドアだと、なぜか判った。
 これで何か着れる!
 そう思ったフェイトは、必死の思いで手を伸ばし、ノブを回した──

 ──ところで、目が覚めた。
 さっきまで立っていたはずなのに、重力は背中に感じる。右手がそこからまっすぐ、天井に伸ばされ、何も無い虚空を握っていた。
 夢?……
 二、三度瞬きをして、フェイトはようやく今のが夢だったと気づいた。安堵のため息を漏らし、右手を額の上に降ろす。
 本当にあんな事になったら………
 そう思うだけで、恥ずかしさで死にそうだ。絶対にごめん蒙りたい。
 右手をどけ、顔を少し傾けた。
 ベッドサイドの大きな窓に、降りしきる雨が見える。
 かなりの降りで、こうしていてもガラス越しに雨音が聞こえてくるほど。この雨音が、シャワーを記憶の底から引き出して、あんな夢を見たのだろうか。
 まぁ、とにかく夢でよかったと思いながら、フェイトは身体を起こした。
 かけていた毛布がはらりと落ち、ハリのある豊かな双丘がまろびでる。
「なッ………」
 慌ててシーツを掻きあげて、胸を覆った。恥ずかしさに頬が赤くなる。
 これも、あの変な夢の原因だろうか。「終わった」あと、幸せで、だるくもあって、そのまま寝てしまったのが悔やまれる。
 とにもかくにも、このベッドに入るまでは、ブラジャーとショーツは身につけていた。ディープパープルの、ちょっと奮発した品物である。
 それを、ベッドの中で脱いだ──というか脱がされたというか、まぁいろいろとあったわけなのだが──とにかく、それを着たほうがいいだろう。
 そう思って、フェイトは毛布をめくりあげた。
 案の定、ショーツも身につけていないのが、ちょっと恥ずかしい。
 頬を染めつつ、ベッドの上を見渡す。
 だが、無い。
 あれ?
 首を捻ったフェイトは、毛布のあちこちを捲った。
 だが、やはり無い。
 ついには、毛布全部を抱えるようにして持ち上げ、ダブルのベッドの上全体を見回したが、ブラジャーとショーツは見当たらない。
 枕も持ち上げてみた。落ちてるのかと首をめぐらし、ベッドの周囲も見た。
 でも、何処にも無かった。
 代わりに、みつからなくていい、太筆が一本出てきて、フェイトは更に赤くなった。
 とにかく、何か着るものを………
 そう思って見渡したが、何も無かった。
 ハンガーに掛けたはずの、執務官の制服すら消えている。
 こ、困ったな………
 フェイトは悩んだ。
 なにぶん、はじめて来た部屋だ。どこに衣類がしまってあるのか、フェイトには判らない。
 なんにしても、この部屋の持ち主に聞くしかないだろう。
 フェイトは裸のまま、ベッドから降りた。
 シーツか毛布で身体を覆う事も考えたが、両方ともダブルサイズだから、一人の身体を覆うには大きすぎる。
 夢の続きのようで恥ずかしいが、このまま相手の所に行くしかあるまい。
 左の腕で両の胸の膨らみを隠し、茂みの辺りは右手をあてがって、やや前かがみになるという、あの恥ずかしい夢と同じ格好で、フェイトは部屋を横切った。
 ドアを開け、あまり長さの無い廊下に出ると、漏れた明かりが矩形を作っているところがあった。
 良いにおいが漂ってくるから、キッチンだろう。
 フェイトは、廊下を壁際に沿って進み、入り口の前で背中を壁につけた。

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