さくらのぶらじゃぁ 初体験
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「ふふふ~ん、ふん、ふふふ~ん、ふん♪」
とあるテレビアニメの主題歌を鼻歌で歌いながら、さくらは制服の白いタイを解いた。
その下にあるファスナーを下げると、お腹の前で左右の手を交差させて上着のすそを掴み、それを引き上げて栗色の髪をいただく頭を抜く。
手早く上着をたたみ、次は白の襞スカート。ホックを外し、ファスナーを下ろすと交互に脚を上げて脱ぎ、上着の上につくねた。
続いて指定の中着、丸首の黒シャツに手をかける。
体育の時間を前にした、休み時間。ごくありふれた更衣室での一コマだったが、何の気なしに顔をめぐらしたさくらは、隣の知世が着替えを全く進めていないことに気づいて、きょとんとなった。
「……知世ちゃん、どうしたの?」
声をかけられた知世の肩が小さく跳ねる。
胸元のタイは解いていたものの、左右の手をお腹の前で交差させて上着のすそを掴んだ状態のまま、立ち尽くしていた。
「ふふふ~ん、ふん、ふふふ~ん、ふん♪」
とあるテレビアニメの主題歌を鼻歌で歌いながら、さくらは制服の白いタイを解いた。
その下にあるファスナーを下げると、お腹の前で左右の手を交差させて上着のすそを掴み、それを引き上げて栗色の髪をいただく頭を抜く。
手早く上着をたたみ、次は白の襞スカート。ホックを外し、ファスナーを下ろすと交互に脚を上げて脱ぎ、上着の上につくねた。
続いて指定の中着、丸首の黒シャツに手をかける。
体育の時間を前にした、休み時間。ごくありふれた更衣室での一コマだったが、何の気なしに顔をめぐらしたさくらは、隣の知世が着替えを全く進めていないことに気づいて、きょとんとなった。
「……知世ちゃん、どうしたの?」
声をかけられた知世の肩が小さく跳ねる。
胸元のタイは解いていたものの、左右の手をお腹の前で交差させて上着のすそを掴んだ状態のまま、立ち尽くしていた。
「い、いえ…………何でも………」
言葉とは裏腹に、いかにも動揺した様子で上着を脱ぎにかかった知世を少し首を傾げて見たさくらは、気を取り直して、中着を脱ぎ、体操着に袖を通した。
頭がとおり、視界が開ける。ところが、見れば知世は頭こそ通したものの、上着をまだ袖に絡めたまま、左の方に視線を向けていた。
「知世ちゃん?」
もう一度声をかけ、さくらは知世が見ていたであろう、視線の先に目を向けた。知世が見ていたのは、佐々木利佳。ちょうど、体操着の下を引っ張って、身体にフィットさせたところだ。
「利佳ちゃんが、どうかしたの?」
「なんでも……なんでもありませんわ……」
少しだけ引きつった笑みを浮かべると、知世はいそいそと上着をロッカーにたたみ入れ、スカートのホックに手をかけた。
「なら、いいんだけど……」
さくらは言いながら、指定のスパッツに脚を通す。お尻にフィットさせ、多少、腰周りのゴムの位置を直すと、体操帽を手に取った。
ロッカーのドアを閉めると、知世は体操着の襟口に頭を通すところ。太めの三つ編みの髪が忙しなく揺れている。
急いだ様子でスパッツを履こうと片脚立ちになった知世は、焦りのためかバランスを崩した。さくらはそれをとっさに支える。
「ありがとうございます」
「ううん」
知世の感謝を笑顔で受けたさくら。やがて着替えも終わり、知世が体操帽を手にする。
「行こう、知世ちゃん」
さくらは声をかけると、更衣室を後にした。
今日の体育は跳び箱である。
運動神経には自信のあるさくらは、助走で充分にスピードを乗せ、勢いよく踏み切ると、両手をパンと突き、一気に上を飛び越える。まるで跳び箱を飛び越える見本のような、理想的なフォームだった。
「よーし、木之本、いいぞ」
担任の寺田に誉められ、さくらは少し照れたように頭を掻いた。
「よし次!」
寺田が言ってホイッスルを吹いた。
さくらの次のクラスメイトが踏み切り板へと走り出す。それを見ながら、さくらは順列の最後尾に歩を進めた。
何気なく、本当に何気なく、並ぶ生徒達を一瞥したさくらは、列の3番目で順番を待つ知世に目が止まった。
「ほえ?」
奇妙な違和感に包まれて、さくらは小首を傾げる。暫く、それが何なのか考えた。
答えは割とすぐに出た。目が合わないのだ。
知世は何時でもさくらを見ている。と、いう事は、さくらが知世を見れば、何時でも目が合うことになる。すっかりそれに慣れきっていたさくらは、今日に限ってそれがない事に違和感を感じたのだ。
「どうしたの?さくらちゃん?」
一つ後に飛んだクラスメイトに声をかけられ、さくらははっとなった。
「ううん、なんてもない」
慌てて言ったさくらは、小走りで列の後ろへと回り込む。その間、ずっと知世を見つめた。だが、一度も目は合わない。いや、さくらが見つめている事にすら、気が付いていないようだ。
言葉とは裏腹に、いかにも動揺した様子で上着を脱ぎにかかった知世を少し首を傾げて見たさくらは、気を取り直して、中着を脱ぎ、体操着に袖を通した。
頭がとおり、視界が開ける。ところが、見れば知世は頭こそ通したものの、上着をまだ袖に絡めたまま、左の方に視線を向けていた。
「知世ちゃん?」
もう一度声をかけ、さくらは知世が見ていたであろう、視線の先に目を向けた。知世が見ていたのは、佐々木利佳。ちょうど、体操着の下を引っ張って、身体にフィットさせたところだ。
「利佳ちゃんが、どうかしたの?」
「なんでも……なんでもありませんわ……」
少しだけ引きつった笑みを浮かべると、知世はいそいそと上着をロッカーにたたみ入れ、スカートのホックに手をかけた。
「なら、いいんだけど……」
さくらは言いながら、指定のスパッツに脚を通す。お尻にフィットさせ、多少、腰周りのゴムの位置を直すと、体操帽を手に取った。
ロッカーのドアを閉めると、知世は体操着の襟口に頭を通すところ。太めの三つ編みの髪が忙しなく揺れている。
急いだ様子でスパッツを履こうと片脚立ちになった知世は、焦りのためかバランスを崩した。さくらはそれをとっさに支える。
「ありがとうございます」
「ううん」
知世の感謝を笑顔で受けたさくら。やがて着替えも終わり、知世が体操帽を手にする。
「行こう、知世ちゃん」
さくらは声をかけると、更衣室を後にした。
今日の体育は跳び箱である。
運動神経には自信のあるさくらは、助走で充分にスピードを乗せ、勢いよく踏み切ると、両手をパンと突き、一気に上を飛び越える。まるで跳び箱を飛び越える見本のような、理想的なフォームだった。
「よーし、木之本、いいぞ」
担任の寺田に誉められ、さくらは少し照れたように頭を掻いた。
「よし次!」
寺田が言ってホイッスルを吹いた。
さくらの次のクラスメイトが踏み切り板へと走り出す。それを見ながら、さくらは順列の最後尾に歩を進めた。
何気なく、本当に何気なく、並ぶ生徒達を一瞥したさくらは、列の3番目で順番を待つ知世に目が止まった。
「ほえ?」
奇妙な違和感に包まれて、さくらは小首を傾げる。暫く、それが何なのか考えた。
答えは割とすぐに出た。目が合わないのだ。
知世は何時でもさくらを見ている。と、いう事は、さくらが知世を見れば、何時でも目が合うことになる。すっかりそれに慣れきっていたさくらは、今日に限ってそれがない事に違和感を感じたのだ。
「どうしたの?さくらちゃん?」
一つ後に飛んだクラスメイトに声をかけられ、さくらははっとなった。
「ううん、なんてもない」
慌てて言ったさくらは、小走りで列の後ろへと回り込む。その間、ずっと知世を見つめた。だが、一度も目は合わない。いや、さくらが見つめている事にすら、気が付いていないようだ。